【連載第20回】「新しい日常」を考える
依然として外出を控える生活を余儀なくされているが、新しい日常の輪郭は、描けてきたのだろうか。
わたくしの暮らすエリアでは、都市再生事業が次々に始動し、昨秋から「Modern Urban Village」と称する東京タワーより高い超高層ビルと、医療施設やインターナショナルスクール、文化施設などからなる新しい街を創造する構想だ。
若者の象徴である渋谷の街にいたっては、いつになったら完成した姿を拝めるのか…わたくしが物心着いてから、渋谷駅周辺がスッキリとした姿を見せたことがない。山手通りや明治通りも、渋谷駅付近になると道路工事による渋滞が常だった。
経済の効率性を求め東京一極集中をここまで高密度に進めてきたわが国は、先進国の中でも突出している。そして招いた、ヒートアイランド現象、通勤・通学の満員電車、ある人は「私は固定資産税の上に寝ているようなものだ」と、ボヤいている。半世紀以上の時間をかけて、いったい誰のための〝まちづくり〞をしてきたのだろうか。
パリが目指す「自転車で15分の街」
東京の“まちづくり”は誰のため
〝ウィズコロナ〞の時代を迎えようとしている今、都市計画にも大きな影響を与える。都市の魅力は、人が行き交うのを眺めたり、狭い空間で社交を楽しめるところにあるのだが、それも今は叶わない。カフェやレストランを利用する時も、感染リスクを避けるため、オープンテラスのあるお店を探すように心がけている。
移動手段も出来る限り電車に乗らずに、車や自転車、徒歩で移動することもしばしば。徒歩や自転車は、世界中の都市で推進されていて、環境だけでなく、健康にも有効だとWHOが推奨する。
フランスの首都パリでは、アンヌ・イダルゴ市長が2024年を目標に、誰もが車なしでも15分で仕事、学校、買い物、公園など、あらゆる街の機能にアクセスできる都市を目指している。
中心部の人口が200万人を超えるパリでは、大気汚染で年間約3000人が命を落としていることから、その対策として、「15Minute City(自転車で15分の街)」を提案した。パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学でスマートシティについて研究するカルロス・モレノ教授による「セグメント化された都市」のアイデアに基づくもので、「遠くから都心に通勤するような都市設計はもう過去のもの」と、モレノ教授は新たな都市ビジョンを示している。
また、メルボルンでは「ローカルで暮らす」をコンセプトに「20Minute Neighbourhoods」を提唱しており、2018年からパイロットプログラムを開始している。
一方で、日本の「地方創生」は進むのか。通信性能が向上すれば、「多拠点生活」や「ワーケーション」という言葉通り、リゾート環境で休暇を兼ねた労働形態も可能だ。
かつて、わたくしも静岡県熱海市に12年間移住をしていた。当時は1週間のうちに2日〜3日、新幹線で東京へ通った。移動中の約50分間は、読書や仕事の資料を仕上げるような時間に充てていたが、現在のようにテレワークやリモート会議が普及してみると、東京への移動にかけていた時間やコスト、肉体的な疲労も含め、どれだけ〝ロス〞をしていたのかを今さらに痛感する。
この先も、グローバルなジェットセッターや、気軽に東京を脱出してレジャーを楽しめる日常が享受できないのであれば、都心の住環境は必ずしも好ましいとはいえない。熱海での暮らしや自然環境が恋しくなるばかりだ。
小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会理事・広報委員。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。
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