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<連載第32回>あすの介護に 佐和子の ハートふるヒント

 

今回は亡くなられた渡哲也さんへの哀悼の意を込めて。

 

 

私が中学生の頃、父と一緒に渡哲也さん主演の「浮浪雲」を観るのが楽しみでした。渡さん演じる雲は品川宿で問屋を営む主人、仕事せずにお酒と女が好きで、妻役の桃井かおりさんとのセリフも絶妙で浮き草のごとく生きる、遊び人風情をコミカルに演じられていました。その翌年からは西部警察がスタートし、役柄の違いに驚きました。

 

 

 

その後私は芸能界で仕事をするようになり、あの憧れの渡哲也さんとテレビ朝日系「私鉄沿線97分署」で共演することに。それも渡さんは検視官で私はその助手でした。ところが撮影初日に入り時間を間違えて渡さんを待たせてしまいました。スタッフにせかされ急いで渡さんのキャンピングカーへ向かい、扉が開いたと同時に「申し訳ありませんでした!」と言うと、かえってきた言葉は「コーヒー飲むか」でした。コーヒーシュガー入りのコーヒーはとても美味しく、それまで飲めなかったコーヒーに目覚めた瞬間でした。

 

 

 

レギュラー終了後お会いするチャンスはなく、ご病気後、復帰作の大阪新歌舞伎座で座長公演に訪れた際に、満員でチケットが取れなく楽屋見舞いに行きますと、「わざわざありがとう。席作るから、観て行って」と花道付け根に椅子を用意して下さり観劇することができました。

 

 

若い時からいくつもの大病を患いながらも、仕事に徹し辛さを微塵も見せない強さ。今振り返ると、撮影時、定時に撮影を終えていたのは健康管理のためだったのですね。そして最後は自分の最期を悟ったのか石原裕次郎さんとの約束を全うし静かに幕を閉じました。渡さんに重ねて今勤務している老健の利用者の皆様を想います。後期高齢者の皆様はとても辛抱強く逞しく、かつ潔い。

 

 

 

渡さんは、何もできない私を、結果はどうあれ必死に芝居に打ち込む私を認めて下さり、久しぶりに会うと「よく頑張っているな」と声掛けて下さいました。

 

 

 

現在の施設にいても、経験豊かな利用者さんから、「あなたがいると安心なの」と言われる。まだ何もできない新人なのに…こちらが安心し幸せな気持ちにさせてもらえる。どこの社会でも、芸能界でも医療業界でも介護業界でもやはり先輩方から教わることは多い。

 

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経
験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

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